10年総点検
900 MWe原子炉の監査
はじめに
準備は8年に及んだ。EDFが保有する900 MWe原子炉34基の第3回10年総点検に備えて原子力関係者の間では8年に亘る評価、検討、そして意見交換が行われる。
トリカスタン、次いでフェッセンハイムで2009年に始まったこの総点検中、施設が基準を完全に満足していることを確認するために大掛かりな検査が実施されるはずである。
目次
· 第2世代の安全再評価
· 第3回10年総点検の4名の立役者
· 900 MWe原子炉の安全レビュー・スケジュール、2002年~2019年
· 5ヶ月を要したフェッセンハイムの作業
第2世代の安全再評価
診断:2009年から2019年までの間に900 MWeクラスの原子炉は次から次へと3ヶ月間の運転停止を経験することになる。目的:第3回10年総点検の実施
10年毎にそれは繰り返される。各動力炉は、一連の重点検査を受けるため運転を停止しなければならない。1977年から1987年にかけて建設された900 MWe加圧水型炉(PWR)の事業者は、順次、長期の運転停止に取りかかることになる。一種の「監査」に例えられるこの第3回10年総点検では、特に3つの内2つの閉じ込め障壁(バリア)、すなわち事象又は事故時に放射性物質を施設内に引き留めておくことのできる密閉容器類の気密性が検証される。核燃料から発生する熱を伝達する1次系は、通常運転時の155バールを遥かに上回る圧力で試験される。核燃料が装荷される炉容器を収めたコンクリートの格納容器は、地上の大気圧の4倍から5倍に相当する4ないし5バールの圧力で「膨張」させ、漏洩率を計測する。漏洩率が高過ぎる場合には、適切な補修を実施しそれを低減する。
安全レビュー
IRSNの安全レビュー局長Christian Pignoletは次のように指摘する。「この10年検査は時間や組織の面で大きな負担となっています。だからこそ事業者のEDFは10年検査に必要な運転停止を利用し、とりわけ安全レビューの結果決定された他の工事や原子炉に関する変更作業を行っているのです」。
原子力の透明性及び安全に関する法律(TSN法)で規定され、10年毎に行われるこの大規模な安全再点検の間に、「施設が設計時の然るべき諸要件に適合していることを確かめるのです」とChristian Pignoletは詳細を説明する。「それぞれの使命を全うするためASNとIRSNは、900 MWe原子炉全体の安全を改善する上で重要と判定される変更措置を検討、実施します」。所謂『一般的』なこうした改善は、34基の原子炉が全て一つの同じ型式をベースに建設されていることから可能である。
導入すべき一般的な変更を決定するため、技術者は最新の知見を考慮する。そこには、これまでの10年総点検から得られた教訓、最新の科学的評価、フランス及び外国の同種施設の運転経験のフィードバック、そして第3世代の原子炉EPRに適用された諸要件が集まっている。当然ながら、各施設の状況や固有の履歴を考慮しケースバイケースの改善も加えられる。
安全は待ったなし
施設の安全改善のために数年にも及ぶ安全レビューの開始を待つのは論外である。原子炉の種類及び出力で性格づけされる発電ユニットが運転を停止する都度、事業者は状況がそれを求める場合には新たな変更措置を導入することができる。例えば、2003年の大熱波以来、発電所の冷却系統は強化されている。
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難しい業務
1300 MWe及び1450 MWeクラスの原子炉を含めフランスには58基の発電用動力炉が存在することに加え、凡そ70箇所の実験所、工場及び研究炉も2006年のTSN法以来、10年に一度安全レビューを実施することが義務づけられている。発電炉に比べて大きな違いは、各施設が単一の型式である点である。これが業務を一層難しいものとしている。
10年総点検及び安全レビューの後、ASNは、IRSNから提出される技術評価を踏まえ、その原子力基本施設に新たに10年の運転許可を交付するか否かを判断する。但し、許可の交付は事業者に対する白紙の委任状ではない。必要と判断すれば、ASNは何時でも施設の運転停止を要求することができる。
最初のクラス(つまり900 MWeのPWR)の場合、第3回10年総点検に伴い実施される安全レビューよって、施設の安全レベルを十分に評価し、強化できたとIRSNは見ている。
第3回10年総点検の立役者、4つの組織
対話:EDF、IRSN、ASNそしてGPRは能力を結集し、原子炉の安全レビューを成功させる
保有する原子炉の安全改善の基本方針を提案するのは事業者、すなわち900 MWe級原子炉の場合にはEDFの役割である。しかし、この提案が妥当かどうかを判断したり、場合によっては追加措置を求めたりするのは、IRSNの技術的支援を受けるASNの役割である。第4の立役者、原子炉専門家常設グループは合意が成立しない事項について意見を述べる。どのような評価を、またどのような作業を実施すべきか最終的に決めるのはASNである。得られた結果に応じて、その原子炉の次回の10年総点検までの運転継続適性が宣告される。
EDF(フランス電力)
事業者は施設の安全に関する第一責任者である。事業者は安全レビューのために実施すべき評価を率先し、然るべき機器試験を実施し、要求された全ての変更措置を講じなければならない。
以上の要件を満たすためにEDFは、一例を挙げると、900 MWe級原子炉の機器類を対象とした広範囲に及ぶ高経年化評価プログラムに着手した。このプログラムは、核分裂反応で生成される中性子の照射で徐々に脆化する鋼製炉容器に特に適用される。
IRSN(放射線防護・原子力安全研究所)
IRSNでは、安全レビュー局(BRS)が加圧水型炉に関するレビューを担当している。特定のクラスの原子炉のレビューについては、責任者が指名される。ASNの要求を受け、この責任者はEDFから提出される書類を審査する。このBRSの技術者はIRSNの他の部局の専門家を動員し、EDFが行った研究や対応策の提案に関する彼らの評価を取り纏めたり、個別の評価を実施したりする。
900 MWe原子炉の安全レビューに関する一般評価の審査段階では、凡そ30人の専門家が約5年間関わっている。900 MWe原子炉の第3回10年総点検が2019年に完了するまでには、更に数名の専門家が加わって、EDFから提出される追加評価並びにサイトでの検査結果を審査することになる。
ASN(原子力安全機関)
ASNは国に代わって原子力の安全検査を行う。安全レビューでは、事業者からの提案を考慮し、IRSNに技術項目についての説明を求め、レビュープロセスのあらゆる段階で見解を明らかにする。
各原子炉の10年総点検が終了した時点で、その施設の更なる10年の運転継続について断を下すのはASNの役割である。
GPR(原子炉専門家常設グループ)
ASNから指名される約30名の原子炉専門家常設グループのメンバーは、それぞれの分野で名をはせた専門家である。GPRは原子力分野の現役専門家及び退職した専門家と、例えば土木工学又はヒューマンファクタ問題の専門家など他の分野の専門家とで構成される。
役割:論争の的となっている原子炉の安全問題について意見を述べる。GPRは、安全レビューの一環としてEDFが幾つかの対応策を講じるようASNに進言するIRSNと、その必要性に異議を唱えるEDFとの間で意見の食い違いが生じた場合に招集され、見解を述べる。
調停者が提案し、規制者が裁決する...
「2008年11月20日、丸一日の会期でGPRが招集された。議題:900 MWeクラスの原子炉の安全レビューで提起された問題、特にIRSNが支持した改善要求にEDFが異議を唱え両者間で意見が割れた10件の技術的課題の審査。
10件の課題の内9件について、我々は、その表現方法に時折手を加えながらIRSNの提案に賛同した。GPRは総括意見書を作成した。この意見書並びにIRSNの勧告に従うか否かを決めるのはASNの管轄である。訓練に関する我々の意見は概ね肯定的であった。残念なのはただ一つ、未だ余熱を放出している使用済燃料を受入れる貯蔵プールの安全性が十分に評価されておらず、今回のGPRの会議での審査に間に合わなかったことである。しかし、この件に関する評価は継続中であり、近い内に結論が出るはずである。」
Philippe Saint Raymond、GPR副議長、ASNの「前身」DGSNRの元総副局長
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900 MWe原子炉の安全レビュー・スケジュール、2002年~2019年
2002
期間:3年
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方針の策定及び評価
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関係者
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EDF
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IRSN
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GPR
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ASN
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種々の案件について研究を実施する
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研究結果を審査、評価する。必要ならば独自の研究を行う。
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EDFとIRSN間の意見の違いを調停する。
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最終決断する
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研究のテーマ
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シビアアクシデント、レベル1及び2のPSA、閉じ込め、事象/爆発、高経年化、内部及び外部ハザード、等々
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2005
期間:3年
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追加研究、実施設計
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関係者
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EDF
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IRSN
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GPR
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ASN
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EDF :
· 実施すべき変更措置を決定する
· 実施設計に着手する(関係業者に対する入札)
· プログラム(誰が、誰と一緒に何をするかなど)の作成
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残された研究の審査
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設定目標から見て、実施された変更措置及び研究が十分かどうかの分析
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2009
期間:10年
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工事、検査期間、安全レビュー
(900 MWe原子炉全34基)
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2020
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関係者
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EDF
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ASN
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IRSN
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10年総点検の際に原子炉に関する変更工事を実施する
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実施された変更工事を検証し、運転継続の許可交付条件を決定する
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ASNの要求を受け、技術問題について支援する
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2010
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2015
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2020
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Tricastin
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R1
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R2
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R3
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R4
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Fessenheim
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R1
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R2
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Gravelines
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R3
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R1
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R2
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R4
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Bugey
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R2
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R5
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R3
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Dampierre
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R1
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R2
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R3
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R4
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Blayais
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R1
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R2
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R3
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R4
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Chinon
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R1
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R2
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R3
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R4
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St-Laurent
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R2
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R1
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Cruas
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R3
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R1
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R3/4
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R:原子炉
息の長い作業
900 MWe原子炉の第3回10年総点検(VD3)を通じて行われた評価によって、益々厳しくなる安全目標を達成するためには約30件の物理的又は組織面の変更措置を実施する必要性が明らかとなった。
Christian Pignolet、安全レビュー局長:
「実施すべき変更措置の中でも、一部耐震構造物の強化或いはシビアアクシデント時に格納容器内の状況を監視できるセンサの設置を指摘することができます。これらの措置は原子炉の安全改善を、更に言えば原子炉容器の破損をはじめこの種の問題が起こり得る運転域でのリスクを『実質的に排除』することを目指しています。一部の研究、例えば地震リスクに関する研究は5年の期間を要しました。
これに加え、事業者が変更工事のロット全体を確定、設計して、請負業者と契約を交わすまでに36ヶ月が必要です。従って、安全レビューの枠内で決定された改善工事を実現に導く作業は、10年総点検の8年前から始めなければなりません。これは、前回の安全レビューが終わって僅か2年後ということになります。息の長い作業です。」
Frédérique Pichereau、シビアアクシデント及び放射性物質放出評価課長:
「炉心溶融事故は900 MWe原子炉の設計時には考慮されませんでした。それでも、この種の事故を予防又はその影響を制限できそうな物理的変更措置或いは手順の変更を実施する可能性やメリットが検討されています。[炉心溶融事故状況における放射性物質放出の頻度、性質及び規模を判定する]レベル2の確率論的安全評価の結果が初めて採用されたのはVD3 900 MWeの安全レビューでした。この評価は、特に、格納容器の機器搬入ハッチ箇所の密閉性強化のメリットを明らかにしました。」
Sylvie Grare、ハザード及び安全アプローチ評価局長
「一部の極端なハザード、例えば強風、炭化水素膜の漂流又は森林火災が900 MWeクラスの安全レビューの中で新たに取り上げられたのです。原子力発電所の取水口を閉塞する恐れのある着氷現象、所謂「氷片」も検討対象となりました。」
1300及び1450も同様
20基の1300 MWe原子炉と4基の1450 MWe原子炉も安全レビューの対象である。
目下第2回10年総点検が進行中の1300 MWe原子炉の安全レビューは、2015年から2023年にかけて予定されているこのクラスの第3回10年総点検に備えて既に開始している。
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5ヶ月を要したフェッセンハイムの作業
総括:オー=ラン県フェッセンハイム原子力発電所1号機の第3回10年総点検は2010年3月に終了した。現場の技術者及び労働者のみならず、IRSN、ASN及びCLISにとっても5ヶ月に及ぶ作業となった。
オー=ラン県のフェッセンハイム原子力発電所には、フランスで最初の出力900 MWe原子炉が設置されている。2009年から2010年にかけてこの原子炉は、VD3とも呼ばれる第3回10年総点検を経験した。
フェッセンハイムのような原子力サイトにとって、それは一大イベントである。専門家が「徹底点検」とも呼んでいるこの総点検中に、実際の運転条件下での点検も含め施設全体が試験される。この停止の監視を担当したASN検査官、Olivier Kleinは、「この徹底した作業と予定された全ての作業を実施するため、事業者はフェッセンハイムのサイトに1日当たり2,000人を動員したのです」と語っている。
勿論、900 MWeクラスの原子炉全体に波及する一般的な安全改善措置が講じられた。しかし、フェッセンハイムの1号機は、2号機と同様、特異な点を持っている。このため、1号機だけに適応化した幾つかの作業を展開しなければならなかった。このクラスのフランス最初の原子炉として、1号機は単独でほぼ一つのクラスを構成することから見れば、当然と言えよう。
工事が続いた5ヶ月の間、施設の安全はIRSNのサイト担当技術者Fabienne Rousseauxによって監視された。「工事中、私は、単なるボルトの緩みやモータの異常振動など事業者から約200件の運転要件違反の報告受けました」。
Fabienne Rousseauxの仕事はこれらの違反を重大度別に分類して最も深刻なものを摘出し、EDFが提案する解決策を検討し、ASNに技術的な意見を提供することで、ASNが実施すべき是正策について決定できるようにすることである。こうして、違反の発見後、原子炉の操作に関与する一連の電気リレーを交換する決定が下された。
2011年の報告書
2011年、ASNは、政府が次回10年総点検までの原子炉の運転継続許可の可否について決定するため総括報告書を政府に提出した。そのためにASNは、EDFやIRSNのみならず、地方情報監視委員会(CLIS)からも技術的な意見を聴取した。
フェッセンハイムのCLISは、市民に情報を提供し発電所幹部との協議を可能とするためにオー=ラン県の議会が運営する多元的な機関である。
「EDF、ASN及びオー=ラン県議会の間の合意によって、我々は『入札の結果採用した』科学者を派遣し、10年総点検の進捗について報告を受けることができた」とフェッセンハイムCLISのメンバーJean-Paul Lacoteは語っている。「EDFは、我々が要求した書類の閲覧を認め、透明性を実証した」と、原子力エネルギー情報科学者グループの議長でCLISから委託されたMonique Senéは認めている。
しかし、彼女は、時間及び手段不足で、第3回10年総点検の作業展開について断片的な意見しか提供できなかったことを残念がっている。
詳細については: