有限会社アール・エス・シー企画 フランス語はじめヨーロッパ言語など科学技術専門の翻訳会社 -- 2011年の仏原子力発電所の安全及び放射線防護に関するIRSN(放射線防護・原子力安全研究所)所見(2013年3月10日)
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2011年のフランスの全原子力発電所の
安全及び放射線防護に関するIRSNの見解
IRSN報告書DG/2013-00001
 
前書き

目次

序文と総括

運転中発電所の安全及び放射線防護の総合安全評価
2011年の運転の安全:傾向
運転中の放射線防護:傾向

事象、異常
安全の証明における異常評価
900 MWe原子炉の安全注入ライン間の流量不均衡
グラブリーヌ発電所1号機、炉容器ボトムのペネトレーション欠陥
配管サポートの異常
トリカスタン原子力発電所1号機で201154日に発生した事象
原子炉の監視における人的又は組織的欠陥

重要な改良
継続的な安全の改善を目指すEDFの取組み
原子炉のエージング作用の管理
安全注入ポンプにおける室温の上昇
混合炉心
蒸気発生器水室での対応作業のための新たな施栓装置
グラブリーヌ発電所周辺の意外なリスク

定義と略語
序文と総括
日本の福島第一原子力発電所で発生した事故は、明らかに、2011年を特徴づける事象である。この事故はEDFが保有する原子炉の運転に直接的な影響を与えなかったが、施設の設計に考慮されていない極端な状況に直面した際の原子炉並びに組織の頑強さについて自問する機会を提供することになった。この事故から全ての教訓が引き出されるのを待つことなく(これには数年の歳月が必要なはずである)、政府が定めた指針に従って20114月から様々なアクションが開始した。その一環として、ASNは、フランスの原子力事業者に対して彼らの施設の安全追加評価(ECS)の実施を要求した。その狙いは、福島第一原子力発電所で発生した諸事象の最初の教訓を考慮して、極端なシナリオに対するフランスの原子力施設の強度を評価することである。事業者が実施したECSに関するIRSNの評価は報告書にまとめられ、201111月に公表された。ECSは、通常の方式(安全再評価)と切り離された画期的な方式の導入をもたらした。すなわち、それまで安全基準で考慮されていなかった状況に対して最善の頑強さを施設に与えるために既存の安全措置を補完しようとした。EDFは、20126月、「ハードコア」と称される実施予定の措置を示す評価書類を提出した。EDFの提案は、2012年に関するIRSNの次回の年次公開報告書で取り上げる予定である。
2011年に関する本報告書は3つのパートで構成されている。最初のパートは、運転中の原子炉の安全及び放射線防護に関するIRSNの総合評価を通じて明らかになった主な傾向を紹介する。2つ目のパートでは、IRSNが特筆すべきと判断する事象の中から、2011年に発生した幾つかの事象又は異常を取り上げている。最後のパートでは、「重要な改良」という題名で、安全面からIRSNの研究や評価を更に掘り下げる必要のあるトピックを扱っている。
EDFの原子炉の安全に関しては、IRSNは、施設の安全、環境、住民に重大な影響を与え得る事象を確認していない。発電所間で時には大きな格差が存在するものの、2011年にEDFから届出があった安全上重大な事象(ESS)の件数は2010年とほぼ同じであった。IRSNでは、燃料取替及び保守停止時のESSの発生件数が上昇に転じているのを確認した。パフォーマンスの改善を目的に展開されてきた組織や管理面の措置は、これまでのところ十分な効果を示していない。
原子炉の運転分野でIRSNは前向きな変化を確認しているが、否定的な傾向も幾つか存続している。IRSNとしては、特に、改善の対象とすべき2つの分野を指摘する。すなわち、運転技術仕様不適合と保守である。前者は、発生件数が増え続けており、原因は様々であっても、一般的に運転時のトラブルや不測事態の処理がうまくいっていないことを示している。後者は、保守に伴う機器の不具合件数が2011年に増加したことから見ても、数年前から既に示されていた傾向を裏づけている。こうした不適合や異常は早期に発見され、安全上重大な劣化を免れてはいるものの、状況の改善が必要というのがIRSNの見解である。これまでの経験は、実際に、複数の不具合が重なった場合、機器の信頼度が事象の推移に大きな役割を果たすことを証明している。特に、本報告書のパート2で紹介するトリカスタン発電所1号機で発生した事象はこれを如実に示している。保守作業の質は信頼性に関与しており、施設の安全上の課題である。
放射線防護については、被ばくした大多数の作業員から、延べ12ヶ月で、公衆の限界線量(1 mSv)を下回る実効線量が記録されている。延べ12ヶ月で16から20 mSv(法定限界値)の個人線量を記録した作業員の数は極めて少ない(2009年の10名、2010年の3名に対して2011年には2名)。作業員の集団線量は、2010年に比べ2011年には約15%増であった。但し、この結果は、2011年の保守作業量の増加で予測されていたもので、保守作業量の増加は更に今後数年継続すると思われる。こうした状況を踏まえ、EDFの努力は今後も継続、ないしは強化されねばならないと言えよう。作業員の放射線防護に関してEDFの発電所から届出のあった重大事象の年間件数は、過去3年間安定している。しかしながら、表示のミスや管理区域立入り条件の違反に関する事象の届出件数が増加しており、この方面での改良が残された課題である。
異常は機器だけでなく、設計評価や時には原子炉の運転にも関係している。こうした異常の一部は原子炉の安全性に重大な劣化を招いたり、また招く恐れがあったりする。異常はIRSNで解析され、追跡されている。IRSNが特に重大と判断する幾つかの異常をパート2で紹介する。
継続的な安全性の向上を目的に、フランスの原子炉はその運転期間全体を通じて改良が加えられている。こうした改良は、大部分が、10年毎に実施される原子炉の安全再評価の一環として行われる研究に基づいている。安全再評価は、設計時に確定された諸要件に対する適合性を単に検証するだけでなく、新たな要件を制定し、これに伴う対応策の実施に繋がっている。例えば、2003年の猛暑を教訓とする「酷暑」ファイルをはじめとして、安全再評価と並行して進められ、改良をもたらした研究の対象である幾つかのトピックもまさにそれに該当する。こうした取り組みは、先述の安全追加評価においてもその妥当性を証明している。安全追加評価によって実施すべきであると判明した改善策の一部は、安全再評価で既に検討されており、場合によっては計画済みであった。一連の改良の中で、2010年、EDFは、使用中の原子炉の安全レベル改善プログラムを後ろ盾にその運転期間を40年超まで延長する意向を表明した。この件に関するEDFの提案については、2011年にIRSNが詳細な審査を行った。
Jacques REPUSSARD
IRSN総局長
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