有限会社アール・エス・シー企画 フランス語はじめヨーロッパ言語など科学技術専門の翻訳会社 -- IRSN報告書、「福島の事故を受けたフランス原子力施設の安全強化:安全"ハードコア"コンセプト」(公開日:2013年11月22日)
有限会社アール・エス・シー企画  お問合わせはお気軽にどうぞ TEL 03-3227-3676
トップページ

  トップページ > 最新情報
20131122
福島の事故を受けたフランス原子力施設の安全強化:
安全「ハードコア」コンセプト
日本の福島第一原子力発電所で発生した事故は、極端な自然ハザードによって原子力サイトが見るも無残に荒廃し、一部設備の制御喪失や大規模な放射性物質の環境内放出に繋がり得る劣化を被ることを明らかにした。これは日本で発生した異例の規模の津波である。同様の事象がフランスの沿岸では起こり得ないにしても、その事実は、設計時に想定されていなかった外部ハザードに対するフランスの原子力施設の挙動について問題提起する妥当性を何ら揺るがすものではない。
従って、この事故を受け実施されたフランス原子力施設の安全追加評価は、極端な状況に対する挙動を評価することになった。一方ではEDFとその他の原子力事業者が、他方ではIRSN2011年に同時に実施したこの評価から、例外的ではあるものの起こり得る幾つかの状況が運悪く重なった場合の多重故障シナリオが明らかとなった。この結果を受け、IRSNは、放射性物質の大量放出を避けるために運転員が影響され易い設備の主要安全機能を維持する能力を強化するための「ハードコア」コンセプトを提案した。この措置は、サイト内の影響を受け易い設備の設計基準を遥かに超えるハザードに耐えられるよう設計された限定数の機器で構成される。これらの機器は、緊急時並びに事故後段階において放射性物質の大量放出を回避し、近隣住民の放射線被ばくを制限するために必要な運転操作の展開能力を激しい劣化状況の中でも維持することを可能とする。
極端なハザードに対する施設の耐久力強化を目的とするこの革新的な取組みは、原子力施設の設計に採用されている深層防護コンセプト[1]の論理に沿っている。また、運転経験のフィードバックを常に取り入れると同時に10年毎の安全レビュー[2]を踏まえながら施設の安全を絶えず追求することを奨励するフランスの安全アプローチの一環でもある。
ASNから今後要求されるこうした「ハードコア」を機動的に実施するには下記の事項が必要となる:
  「ハードコア」機器及び危機管理機器を設計又は検証するため、設計基準を遥かに凌ぐハザードの定義。特に、施設の立地サイトに影響する地震や洪水のみならず、気象ハザードや産業環境(例えば近所にSeveso - 大規模事故リスクを抱える産業施設 - が存在すること)など。
  極端なハザードの際に施設内で制圧すべき事故状況の特定。例えば原子力発電炉の場合、万が一冷却系が故障しても、炉心や使用済燃料貯蔵プールの長引く冷却喪失を回避し、想定される放出を制限することである。
  上述の事故状況の制圧を可能ならしめるとともに、先に定義したハザードのレベルを想定して設計(また既存の場合には検証)すべき、「ハードコア」及び危機管理に属する機器の明確且つ限定的定義。これらの機器は然るべき状況の中で主要な安全機能を確保し、放射性物質の大量放出の回避を可能としなければならない。
IRSNは、この取組みを段階的に実施して、様々な原子力施設の実質的な「危険度[3]」を考慮に入れていくべきであると見ている。原子力発電炉の場合で、「ハードコア」がシビアアクシデントの予防及びその影響の制限と危機管理とに同時に関係すべき際には、原子力実験室又は解体中施設などの他の施設にとっては、一部の安全系統の検証と危機管理措置の強化だけが必要となることがある。
考慮すべきハザードのレベルについて、採用すべきレベルを確定する原則が一般的な性質を持っている場合、その適用は必然的に様々な原子力サイトに特有のものとなる。目指すところは、施設の設計基準ハザードを遥かに上回ると同時にあくまでも国内で起こり得る現象に即した激しさを持つより例外的なハザードを代表するレベルの採用にある。具体例を挙げると、地震ハザードの場合の極端なレベルは、(施設の通常の運転寿命が凡そ50年であるのに対して)再現期間が数万年を大きく超える地震に対応する[4]
「ハードコア」又は危機管理に属する機器の設計(ないし検証)については、これらの機器が起動要請を受けた場合にその機能の確保能力の面で高い信頼性が得られるような基準及び方法を採用しなければならない。
結論として、福島の事故から得られた最初の教訓への対応によって、事業者は、放射性物質の大量放出の回避を目的として影響を受け易い設備の主要安全機能の維持能力を強化するため、運転する原子力施設に加えるべき改善策を摘出することができた。IRSNとしては、これらの改善策は施設が抱える潜在的放出に関する課題に応じて調整され、サイト全体に影響を与える状況に対処可能な頑強な機器と危機管理手段に訴える必要があると見ている。そこで関係してくる「ハードコア」の構成機器は、施設が放射性物質を環境中に放出する潜在的可能性に応じてその必要性又は機能要件が決定される。
 
 


[1]深層防護コンセプトは、事故を防止し、事故が発生した場合にはその影響を制限するために以下の5段階までの防護を使用する論証方法である(cf. IAEAINSAG 10):
「運転異常及び系統の不具合の予防」(リスクに適応した余裕のある頑強な施設の設計)
「運転異常及び系統の不具合の検知」(逸脱を検知し是正する監視手段)
「施設設計の枠内での事故管理」(工学的安全系)
「事故状況の悪化の予防、及び施設に影響を与え得る最も深刻な事故影響の制限」(事故を制圧し放出を制限するための最終手段)
「大規模放出時の住民に対する放射線影響の制限」(緊急時対応組織及び計画)
[2]原子力施設の10年毎の安全レビューは、施設の許可条件との適合性を検証し、経験フィードバック、新たな知見及び規制や安全慣行の変化を踏まえて施設の安全を再評価するのが目的である。実際には、事故管理の強化を特に目的とする施設の改善プログラムが実施される。
[3]   危険度」は、極端なハザードの際、施設が大量の放射性物質の環境内放出を誘発する可能性に対応している。この危険度は、使用される放射性物質の量や特性、ハザードに対する工程の「靱性」、事故状況下で放射性物質が施設内で拡散する可能性、施設の閉じ込め機能劣化時における環境内放出の可能性などに左右される。
[4]  再現期間」は、与えられた強さの地震動を上回る頻度を示している。原子力施設の設計基準ハザードとして、凡そ数万年の再現周期を採用するのが国際慣行となっている。
印刷
Copyright© 有限会社アール・エス・シー企画 All Rights Reserved.